まちづくりからの公共交通利用促進

今年は、国土交通省の「鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会」や「アフターコロナに向けた地域交通の「リ・デザイン」有識者検討会」が開催され、提言が公表されたことから、公共交通を改めて考える機会として、社会的に注目されました。

少子高齢化・人口減少が進むにつれて、今まで通りの公共交通がただ存在し続けることが難しいという当たり前の事実は、路線の「廃線」という事実に直面した時に自分ごととして捉えられて議論になるわけですが、そうではない地域においてはなかなか自分ごととして捉えることが難しい面がありましたが、それもコロナ禍というこの3年に及ぶ影響によって認識を改める機会となりました。

公共交通を持続可能な状態にしていくには、その利用を地域生活や観光に組み込んでいかなければなりません。一方で、地方部においては自家用車による移動が当たり前となり、公共交通を利用する人は学生か高齢者に限られているのが現状です。そういった中で、どのように公共交通の利用を促進していくのか、これまでは「乗って残そう」運動のような自治体や交通事業者が主体となって進められるケースがほとんどでした。

私たちは、ワーケーションを通したまちづくりの実証実験を進めてきたなかで、まちづくり側から公共交通の利用促進ができないかという観点から、温泉MaaSにおける路線バスの活用を行ってきました。私たちは、さらに千曲市を通る第3セクター鉄道「しなの鉄道」の利用促進を考えてみることにしました。


公共交通利用促進のアプローチ方法

まずワーケーションという観点で、観光客の公共交通利用を促進することを考えます。観光客の移動には、自宅等から観光地までの往復移動、観光地及び周辺の周遊移動の2つがあります。これらを区分して考えてみることにします。

自宅等から観光地までの往復移動(旅行来訪者)における公共交通利用促進

自宅等から観光地までの往復移動では、自動車によるもの、高速路線バスによるもの、飛行機・新幹線などの幹線移動と在来線・路線バス等による地域移動を組み合わせたものなどが考えられます。私たちの活動場所である長野県では、平成 17 年度全国幹線旅客純流動調査によると県外からの来訪者は、87%が自動車によるものとなっています。これは自動車による来訪であれば乗り換えもなく、切符を途中で買ったりする手間もなく来れるという利便性から選ばれているものと推測されます。

そこで、交通事業者による利用促進では、幹線移動と地域移動をシームレスに乗ってもらえるようなフリーきっぷを発行するアプローチが多くなります。しかし、もともと少ない利用者の利便性はよくなりますが、大部分の自動車来訪者をこの利便性だけで転移させることは限定的になってしまいます。図1の左側「旅行来訪者の利用促進」がこれにあたります。

観光地及び周辺の周遊移動(旅行滞在者)における公共交通利用促進

私たちのアプローチは、まずは観光地に来ている人たちを対象とします。これはワーケーションで比較的長期に観光地に滞在している人たちの観光地内や周辺地域への周遊移動において、公共交通の利用促進ができないかというアプローチです。このアプローチでは、観光地に滞在している人たちの観光地への往復移動手段を問いません。ただし、周遊移動に往復移動で使った自動車を使われてしまうことが競合となります。図1の右側「旅行滞在者・居住者の利用促進」がこれにあたります。

観光地内の移動における公共交通利用促進の方法として、私たちはこれまで「温泉MaaS」の取り組みを進めてきました。タクシーを気軽に使えるようにして、シェアサイクルなどと連携し、また路線バスを利用しやすくしてきました。

観光地周辺地域への移動には、観光地から最寄駅までの移動と観光地から周辺地域への移動(主に鉄道)を考える必要があります。前者はこれまでの温泉MaaSの仕組みでカバーできます。後者では、ワーケーション参加者(旅行滞在者)が利用できるようなフリーきっぷが望まれます。また、これが最も重要なのですが、ワーケーション参加者(旅行滞在者)が観光地の最寄り駅や周辺地域の駅に行く理由を作る必要があります。

私たちは、これまでワーケーションイベントにおいて「トレインワーケーション」を駅に数時間停車させて駅カフェとする実証実験を行ってきました。こういった非日常空間を駅に作り出すことで、ワーケーション参加者(旅行滞在者)を駅に行くモチベーションを作ることができると考えています。また、しなの鉄道沿線では駅構内または駅近くにコワーキングスペースを開設している駅も増えており、こういった施設も駅に行くモチベーションにつながります。

ワーケーション参加者向けフリーパス実証実験

2022年11月6日〜12日において、千曲市ワーケーション・ウェルカムデイズ「信州まるかじりワーケーション」が開催されました。このイベントにおいては、千曲市だけでなく、長野市松代、上田市、東御市、小諸市、佐久市が連携して、千曲市に集まったワーケーション参加者は希望する地域にも訪問し、それぞれの地域のまちづくり等を取り組んでいる方々との交流も行うというものでした。

このイベントに合わせて、ワーケーション参加者向けフリーパスを、千曲市役所、しなの鉄道と連携して限定発行しました。このフリーパスでは、千曲市路線バス全線としなの鉄道の対象地域内(屋代高校前駅〜小諸駅間)に期間中乗り放題となります。ただし、しなの鉄道は換算時間帯(午前9時〜午後4時)の間のみの乗車に限定しました。

このフリーパスは、バス乗降時や駅の改札通過時に券面を係員に見せる運用としており、このタイミングでデータを取得することで、フリーパスでどこからどこに移動したのかデータを取得できるようにしています。そのため、期間終了後に、参加者がどのように移動していたのか把握することで、次回以降のイベントや利用促進策の検討に活かすことができます。

またワーケーションイベントのなかで、一部地域ではワイナリーツアーを組み込むことで、公共交通を利用することでワインも楽しむことができるようにしました。公共交通の利用促進では、交通だけでなく目的との連携が不可欠であると考えています。

温泉MaaS Developers

日本の観光地の代名詞とも言える温泉街を、ワーケーションとモビリティサービスを組み合わせて活性化する街づくりプランナー、コーディネーター、デベロッパーのためのサイトです。

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